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右手


 12月  某日         晴れ

草友舎の引越しは身軽だが、それでもそれなりに慌ただしかった。
年末も店に出て、滞っていたこまごましたことを片付ける。
ビルの谷間でも昼間は店のなかに日光が差し込む。
日の入りはおそくなってきたことがわかる。
二年間、地下2階にこもっていた者にはこの当たり前なことが新鮮だ。
雑用していても気分がいい。
これでもう、
「自分はこの部屋で居心地よく過ごしている、、」
と、暗示をかけなくてもいい。


1月  某日より三日間        ずっと晴れ

風邪をひいているにもかかわらず奈良にでかける。
秘仏拝観の申し込みをして電車を乗り継ぎ最寄り駅からでも数十分はてくてく歩く寺を訪ねる、といういつものような活発な行動はさし控え、奈良市内の大寺の境内をゆるゆる歩きまわり、夕方5時半になったらぶらぶらといつもの居酒屋にはいる。
私は奈良に滞在している間、毎日この店に通ってもかまわない。

70年ほど前から行方不明になっていた新薬師寺の香薬師の右手がつい最近見つかり、奈良博の仏像館に展示されている。
小金銅仏の展示ケースのすみにちょこんと並べられていたその手には可憐で泣かされた。

『全体から受ける印象に加え、手相や関節の表現にいたるまで法隆寺の夢違観音の右手と酷似し、両像が同じ作者によることを示している』と解説にあるが、夢違観音の顔や宝冠や瓔珞ほどに手は鮮明に思い出せない。


1月  某日        晴れ

昨年の大晦日の夜に駿河台下交差点近くの植え込みから人目を憚り折ってきたバラの蕾がひらく。
あいにく店にも家にも花器がなくペットボトルに入れたままとは失敬してきたバラに申し訳ないことだ。


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奈良

2017


おだやかな、よい一年となりますようお祈りいたします

昨年12月に移転し、気持ちもあらたまりました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(気持ちもあらたまったところですが、都合により4月上旬まで営業が休みがちになります)



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本年もどうぞよろしくお願いいたします           とり

昭和ビル


店の引越日が予定より10日ほど延びたので、二年と少しのあいだ世話になった昭和ビルを名残り惜しむゆとりがでてくる。

いつも1階と地下との行き来だが最上階の10階からおりてみることとしよう。

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各階ごとに写真の撮り方をかえてみよう。


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投函する郵便物の差入れ口が各階に設けられている。
ここに郵便物をいれると1階まで落下して、それを郵便局のひとが決まった時間に回収にくる仕組みは平成25年まで利用されていたとのこだ。

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『5』は、五十嵐の『ご』だからとくに愛着をもってたくさん撮る。

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写真の撮り方の工夫が尽きてきた。

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今はどの階もほとんど空室になっている。

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差入れられた郵便物が途中でひっかかった時につかう、先代の守衛さん手作りの小道具を今の守衛さんが見せてくれた。
麻紐で板の角度が調節できる、なかなかの力作だ。


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1階エントランスの床。


11月  某日       晴れ

移転先の内装がほぼできてきた。

『室内のもつ性格を感じとり、なるべく作り込まずにさっぱりと』を、モットーに工事内容を考えて、仕上がりが見えてきた室内は、、、

いささか動揺する。
 こ、これは、、、
古びた普通の事務所が、ただ真新しくなったようなだけである。

少しは骨董屋さんらしく見えるよう、越してきてから工夫することにする。


11月   某日        雨

越してきてから工夫する、と気をとりなおそうとはしたものの、まんじりともせずに夜があける。
自宅の室内にさがっているいくつかの電傘をやにわにコードごとぬきとり現場に持ち込む。
灯ると、ほんのりとではあるが骨董屋っぽくなった(ような、、)。

移転のお知らせ


移転先が決まりました。

現在草友舎が入っている昭和ビルは、建替え計画のため来年3月までの契約でしたが、11月中に移転いたします。

同じ京橋内、中通り沿いにあるニコスコーヒー前のビルの2階で、1階は古美術大谷さんのお店です。

今度は大きな窓あります。


10月  某日   日曜日     晴れ

いかに内装工事をほどこすかを考えるために移転先で過ごしてみる。
ながらく入っていた何かの事務所が原状回復せずに出て行って、何年も見放されていたらしき室内だ。

今時点では自分がここに越してくる実感がまったくわいていない。
そこで手始めにこの室内でなにかしてみようと、昼食を摂る習慣がないのにむりやり飲食をしてみる。

内装はこざっぱりと、費用の面からもなるべく作り込まない方向でいきたい。
まず、この室内の性格を知ることが大切だ。


10月  某日   日曜日     うす曇り

先週に引き続き、移転先で過ごして内装の計画を練る。
ただ普通の部屋にするためだけに、かなり作り込まなくてはならないことがはっきりして途方にくれる    (*_*)


10月  某日   日曜日     晴れ

途方にくれながらも移転先に小さな品物とパソコンを持ち込み、窓辺の自然光でホームページの商品紹介コーナーにのせるための写真を撮って、更新作業をしてみる。

さして飲みたいわけでもなかったが近所のコーヒー屋からコーヒーを持ち帰ってきて、休憩をしてみる。

自分はこの部屋で居心地よく過ごしている、過ごしている、、、と暗示をかけてみる。


10月  某日   日曜日     うす曇り  寒い

内装工事の内容は先週までにほぼかたまった。
今いる地下2階で瓶に花を入れてそれを移転先に持って行き窓辺に置いてみる。

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こんなことは人通りの多い平日にははずかしくてできない 、、。


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仕上がりを想像することでしばし過ごす。

移転先に馴染むためにいろいろ試みた一ヶ月だった。

秋晴れ


朝、京橋に着くと目抜通りに大勢のひとがつめかけている。
リオオリンピック、パラリンピックで活躍した選手がパレードするのだそうだ。
実のところ、私は人として異常ではないかと思うほど、スポーツ観戦に対して興味がうすい、うすすぎるとも言える。
だから競技のルールも選手の顔もほとんど知らない。

店の開店の準備を終えて、そろそろ一行が通る時間に地上に出てみる。

何台かの屋根のないバスで晴れやかに通りすぎる選手たちと目があったような気がした。
わたしは手を振ったり拍手をしたりしていた。

わたしにもその時にはなにか芽生えたものとみえる。

9月後半戦


9月  某日        曇り  

めったに会うことのできない親戚が初めて草友舎にやってくる。
私はこの時をとてもたのしみにしていた。
彼らが見る古美術品といえば美術館や博物館に陳列された品々で、このように欠けた壷とか頭だけの仏像とかとても上手くない絵が広い空間にぽつぽつ置いてあるのを見てどう感じたただろうか。

閉店時、地震対策のため品物を床におろす。
彼らに「これ以上割れたら困るからね」と説明する。


9月  某日       はげしい雨

休日。
山里のお寺に参った感じを味わいたかったので、東博の櫟野寺の仏たちを見るのになるべくはなばなしくない時を見計らう。

ひとつ、平成館で特別展が開催されていない。

ひとつ、開館時間が地味に延長されている日。

ひとつ、出歩く気が失せるほど天気がわるい。

この条件がそろったので夕方出かける。

見込んだとおり会場には2〜3人だけで、自由に歩き回り草友舎に招きたい仏像をひとつにしぼる(No.10)。

蛍の光を聞きながら外に出ると、日は暮れていて雨はやんでいて虫の声がたくさん聞こえて近くのお寺から鐘の音も聞こえてそれに意外と街灯が少なくて暗く、展示の余韻をあじわえた。


9月  某日        晴れ

竹の花入れに笹を入れる。
笹が竹に成長するわけではないけれど、親子丼があたまをよぎる。

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9月 某日   曇り?

数日前から金木犀が香ってる。
都内の数カ所で銀杏が落ちているのを確認。
?と思って木を見上げると葉はまだ青い。
毎年9月でこうだったのか?
彼岸花は毎年お彼岸に咲くのでいつも感じ入る。

9月前半戦


9月 某日  晴れ

数日前、「モチベーションがあがらない」という文句を初めて口にする。
もちろん、そんなこころの状態になったのが初めてなのではない、むしろたびたびだ。
はやりみたいな言葉を使うのをなんとなく差し控えてきたのだ。
言ってみるとその時の自分の様子にとてもしっくりきたのでその後はためらいなく使用する。


9月 某日  曇り時々雨

ホームページの商品紹介に載せるための写真を撮ってみるのだけどなかなか思うように写らないので更新が滞りがちだ。

今日、古銅の兎形水滴を撮ってみたら割合に現物どおりに写ったので更新するためのパソコン作業にかかる。
いくつかの写真のなかに、兎の眼が上目づかいになってるような顔のアップを混ぜ込み「情に訴えかける作戦」と名付ける。
その日何度も自分のホームページの兎のところをひらいては、そのたびに「かぁ〜わいい♡」と満足する。


9月 某日   曇り時々晴れ

朝、薄日がさした。
とてもやさしく室内にさしこんだのでちょっとさみしくなる。
また南千住に行きたくなるが気持ちを鍛えなくてはと思い直して我慢する。


9月 某日   晴れ ちょっと暑い  

気がつけば古銅の兎に関する問い合わせが一件もない。
情に訴えかけられた人はこの水滴を買った私しかいないようだ。
作戦、目論見違いに終わる?

 

八月の終わりごろから道ばたに桜の葉の黄色くなったのがけっこう落ちている。
毎年そうだったのか?
このままいくと秋には肝心の葉っぱがなくなっちゃうのではないか?

まだまだ暑いなかに秋の気配がみえてくると日本人は何とはなしにものさびしくなるのでよし、こんな日は南千住だ、と出かけてみた。
たどり着いたら扉に「このたび閉店致しました、云々、、」と張り紙がしてあることだってありえなくもない、、と思いながら目的の居酒屋まで歩く。
営業しているしるしの生ビールの形をした大きな置き看板が出ていたら安心だ。

庭の見える窓際にはテーブル席が4卓あったけど去年の秋に片付けられて今はコの字型カウンターだけになった。

店内の感じは木造校舎の小学校の教室みたいで、醤油差しとソース瓶と隙間なく箸がさしてある箸立てと灰皿のよっつひと組がカウンターに等間隔で置かれている。
木の丸椅子も等間隔に置かれている。

携帯電話は出しただけで咎めらる。

「さてはこの人飲んできてるな」と、ここの店主にふまれたひとはどんなに飲んでないと言い張っても入店させてもらえない。

ぶぅーんと首を振りながら働いてる扇風機とテレビドラマの再放送の音を聞きながらコップに注いでもらったお酒を飲む。

こんな先生いるいる、、と、ほとんどしゃべらずいつも入り口をにらんでいるような店主を時どき盗み見る。(たまににっこり笑います)

お客は、私が入る時にひとりで出て、私のほか誰もいない時がしばらくあって、ひとり入ってひとり入って程なくふたり出て行ってまた私だけになった。
静か、っていうのは音なんだ、、しんとしたっていうのは音なんだ、、、とか思いながら飲んで帰る。

撫子


8月 某日  晴れ

午後、今の雑草事情を調べに近所の散歩に出かける。
草友舎の夏休み明けに店で使えそうな、翌週に採りごろの花をいくつか確認した。
私は生えている草花や木の枝は取るけど植えてあるものは取らない、
というのはちょっと嘘で、たくさん植えられて放っておかれてあるらしきものは「ひとつくらいいいかな?いいでしょう」と、たまに出来心を起こす。


8月 某日  台風

今週は夏休みにすると決めていたけどベランダの植木鉢で咲いた白い河原撫子を店で活かそうと暴風雨のなか家を出る。
装備(を持っていないのでずぶ濡れになる心構えをするのに)に気をとられて玄関に撫子忘れて来たこと、店に着いてから気づく。


8月    某日        晴れ

撫子を持って店に出たい気持ちもあったが夏休みにしたのだから奈良に行く。


8月    某日   台風の影響あり?(地上の様子がわからない)

植木鉢から切った撫子は紙にくるみ自宅冷蔵庫で冷やしておいたので、1週間経っても咲き始めの状態を保っていた。

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店で使う。