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居酒屋考


2013年   某月 某日

六本木の美術館で催されていた「もののあはれと日本の美」展を観にいく。

「もののあはれ」とはその語感から、なにか物悲しく儚いイメージにかたよられがちだが本来は、四季の自然の移ろいや人生の機微に触れた時に感じる情趣に賛嘆や愛情を含めて深く心にひかれる感じを意味していたとされるとのこと。
その、日本人が古来から育み洗練させた美意識を、平安時代以来の美術の世界にその継承と変化の様相をさぐろうというこころみである。

展示は、「もののあはれ」の源流となる平安貴族の生活と雅びのこころから生まれた物語絵、美しい料紙に書かれた和歌をはじめ漆芸や染織などの工芸品から近現代の風俗画へとすすんでゆき幅広い。
いかに「もののあはれ」が時代により更新されつつ日本美術の核心部分に息づき叙情ゆたかな美術の世界をくりひろげてきたか、あらためて気付かされる。永い年月、日本の人々に大切にされ伝わってきた展示品それぞれの経年による静かな古びた味わいが、さらにそのおもむきを深めているように思う。

ゆっくり堪能して会場を出るとそこには、「もののあはれ」なんてすっかり忘れさられたような街の景観がひろがっている。
そこで私は自分が通ういくつかの居酒屋のうちでいちばん「もののあはれ」を感じる店はどこか、考えてみた。
私は古くからのまま今に営んでいる居酒屋を尊んでいて、足が向く店は自然とそういう店がほとんど。
小料理、割烹といった店にはけっこう「もののあはれ」を感じるところがありそうだけど、店主やお客さん同士との距離感が近く、会話の気の利かない私はそういったところにはあまり行かないので、大衆的な居酒屋のうちで順位をつけてみた。

第一位    南千住の大林

そこに身を置いて飲んでいて、けっして面白おかしく楽しいといった気分とはちがうのに、なんでこうも胸にしみじみとくるのか。
展覧会場のパネルで読んだ本居宣長の『「もののあはれ」を知ることこそが、人生を深く享受することにつながる』との指摘、ちょっとわかったような気になる。
再開発や後継ぎがいないなどで、なくなってしまった店もいくつか思い出される。
今の時代、もののあはれを感じるような店が存続していくのは、むつかしいのです。

マイホーム


あふれふくらんでゆく情報社会の片隅に、小さな家ができたきぶんです。ホームページとはよく言ったものだと今さらながらに感心しました

パソコンは不慣れですが、折々に好きなものをご紹介できればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。


草友舎 五十嵐真理子