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酒屋


4月 某日  晴れ

ここから家まで歩くと小一時間かかる、と思ったが、目の前の駅から電車に乗らず歩き始めた。
自粛を実行して夕方6時過ぎに営業している店も少ない暗めな通りに一軒、明かりの点いている木造の酒屋があった。
広い間口に嵌められている8枚の引き戸も店内の陳列棚も、建てられた当時のままだとみた。
棚には商品よりも隙間が目立つので、近いうちに店仕舞いするのかもわからない。

家にお酒は足りている。
手荷物をこれ以上増やしたくなかったが、足を踏み入れる口実に、乾きものでもひとつ買おうと考えた。
店構えから、ここの店主は江戸っ子の老人か年齢とともに気難しくなった老人だろうと予想して、てきぱき話さなくてはと構えていたら、「いらっしゃいまし」と、穏やかな老人が奥から出てきた。
その様子につい、古い佇まいに惹かれてお店に入ったと打ち明けると、「どうぞゆっくりご覧ください」と言ってくれたので店内を歩き回った。
外から窺えたとおり、掃除も行き届いていて何を手にとっても埃を感じない。
小さな缶詰をひとつ買った。
この建物は大正12年に建てられ、昭和に入って道路拡幅工事で少し後ろにひいたそうだ。
頑丈に作られた大きな木の机に地図を広げて詳しく教えてくれたとおりに歩くと、携帯電話で導かれた道よりも5〜6分早く家に戻れた。