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まだ明るいうちに南千住の居酒屋へ行く。
いつものように、その店の庭の緑が見やすい席に着く。
剪定されて、どの木もほぼ幹だけになっていた。 
無口な店主のおじさんは、私が燗酒を頼むとこちらを見ながら親指と人差し指と中指で盃を持ち上げるような仕草をする。 
自分の盃を持ってきているのかという質問だ。 
私は二年ほど前に一度だけしか盃を持参したことがないが、「今日は持ってきてないです」と、日によって持参したりしなかったりしているみたいに毎回答える。
小一時間ほど経つと日が暮れかかり、板ガラスの窓越しの木々と店内に整然と貼られた白い短冊の品書きが重なるように見えてくる。
窓ガラスに店内がはっきりと映って庭が見えなくなるのまでのひとときを惜しむ気持ちが、ここに身を置いているといつも微かにわく。 
外が暗くなると、ひと昔前の家庭の台所から聞こえてくるような調理の音に意識がいくようになって、さっき惜しんだ暮れる直前の時間のことを忘れている。