2025.12/26
猿沢池風景
ご主人の大腿骨骨折からのリハビリで、一年近く休業していた奈良の食事処から、この暮れの2週間の営業でもって閉店するお知らせをいただいたので、予定をたてて出かける。
*
この店には25年くらい前から年に数回ほど来ていた。
猿沢池近くの、何軒かの古い町家が連なる路地にある。
奈良に二泊すれば二日続けて通った。
博物館やお寺を巡ったあとに猿沢池を廻り、興福寺の五重塔を仰いでから入店するのは、そう決めていたわけではないが何となく慣わしになっていた。
かわるがわる怪我などに見舞われ休業しながらも、60年近く店を続けてこられたご夫婦のお人柄と家庭的な料理、町家を改装してひと時代を経た素朴な店内は、私にとって尊い奈良の古寺との区別がない。
その日見た奈良の古美術を思い返しながらそこに身を置いて過ごせることにいつもしみじみと有り難みを感じていた。
冷酒を頼むと、鹿のレリーフが見込みにある近所の酒造会社のガラスの盃が出される。
この盃は4色あり、寒色系か、無色透明が好きな私に、そうとは知らずいつも桜色を選んでくれるのもご主人のこころづかいなので嬉しく思って使った。
*
これまでのことを思い返しながらしばらく過ごし、最後にお礼を述べて外に出て、赤い提灯の灯る路地を携帯電話で少し写真に撮った。



