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7月 某日  晴れ

例年ならとうに、地面に小さな穴を空けて出てきた蝉の声が周り木々から降り注ぎ始めてもよい時期なのに、自宅の前の街路樹も、上野公園に行っても、しんとしている。
まず、今から鳴き出さんと、ジーーー、
と始まるアブラゼミの声が聴こえてくると、なんとなく夏休みを待つ子供ごころにかえる感じがする。
この梅雨、東京はあまりに雨が少なく、気温も高くて地中で蝉の幼虫はみんな干からびてしまったに違いないと思い至った。

7月 某日  晴れ

割と数多く出回る、お寺の国宝のものをとった拓本でも、墨の調子などに拘ると欲しいと思うものは絞られる。
紙が焼けていたりシミのある拓本のほうが、白くて綺麗な状態のものより私にとっては心に添う場合がある。
久しぶりに東大寺の八角灯籠の拓本の掛軸を買う。
墨の調子は淡めで、音声菩薩の顔も愛らしくとれている。
八角灯籠は空のもとにあるものだし、この懐かしさを誘うような風合いになった拓本と蝉の声は響き合うように思った。

7月 某日  晴れ

自宅前の街路樹で急に蝉が鳴き始めた。
干からびていなかった。

7月 某日  晴れ

京橋では蝉の声が聴けないので拓本を自宅に持ち帰った。
朝から蝉は鳴いていた。
壁面に梁があったので店では掛かった大きな拓本は家には掛けられなかった。